研究概要 |
これまでにIgA腎症発症におけるIgA/IgA免疫複合体(IC)の役割を検討する目的で、メサンギウム細(MC)に発現するFcαRの性質を解析したが、今回は腎炎におけるFcRの役割を検討した。1)機能的FcRの発現を欠くFcRγ鎖ノックアウトマウス(γ(-/-))では、自然経過とともにIgA腎症同様に糸球体メサンギウム領域に大量のICが沈着することを確認した。54週令γ(-/-)に対して、野生型マウス(WT)の骨髄を移植し(Wγ)検討したところ、末血がWTに入れ替わっても、炎症は惹起されず、IC沈着量も不変であった。しかし、Wγとγ(-/-)にウサギ抗マウスIgG抗体を投与すると、Wγでは一過性に炎症が惹起され、2週後にはウサギIgG/ICが完全にクリアされたが、γ(-/-)では不変であった。以上から、FcRは局所のICの除去といった生理機能上も重要と考えられた。同時に炎症の惹起にも関与し、それは単位時間当たりのICの暴露量にも影響を受けている可能性が示された。2)次に馬杉腎炎をFcRの視点から再評価した。先述のγ(-/-)を用い馬杉腎炎を検討したところ、初期相が完全に欠落した。また、抑制性のシグナルを伝えるFcγRIIbのノックアウトマウスも検討したところ、浸潤血球数がWTと差がないにも関わらず、初期相は早期にそして重症化した。初期相の鍵を握る分子は、補体ではなくFcRであることが明らかにされた。しかし1週間後にはγ(-/-)において異なる組織像を呈する腎炎が誘導され、FcR非依存性、抗体依存性の経路も確認された。これはrenin-angiotensin系(RAS)と関連すると仮説をたて、angiotensinII receptorノックアウトマウス(AT(-/-))とγ(-/-)間で骨髄移植を行いキメラマウスを作製して検討したところ、腎臓がATl(-/-)、末梢血がγ(-/-)の場合炎症が、一切惹起されなかった,即ち馬杉腎炎の発症はFcRおよびRASに強く制御されてることが判明した。これは腎糸球体に沈着するICは、病的多面性を有していることを意味し、IgA腎症の発症、進展を考える上で示唆に富む知見と考えられた。
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