急性腎不全の回復過程のモデル実験として、腎尿細管由来のPtK1細胞培養系を用いた。急性腎不全を誘起する薬剤としてゲンタマイシンとシスプラチンを、また腎毒性金属としてカドミウムを使用し、各々を数時間培地に添加した。その後、回収した細胞から水溶性および非水溶性/尿素溶性の各蛋白画分を抽出し、各画分の遊離型ユビキチンとマルチユビキチン鎖を2種類のイムノアッセイで定量した。なお、ユビキチン系による細胞内蛋白分解において、標的蛋白質に結合したマルチユビキチン鎖が分解シグナルであり、遊離型ユビキチンは将来のマルチユビキチン鎖生成(ユビキチン化)に備えた貯蔵分子である。 何れの実験でも、遊離型ユビキチンは水溶性蛋白画分に、マルチユビキチン鎖は水溶性と尿素溶性の両画分に検出された。カドミウム(最終濃度1-16mM)の添加では、濃度依存性に細胞内の遊離型ユビキチンが減少し、両画分のマルチユビキチン鎖が増加した。また、ノザンブロット法による解析の結果、この際、ポリユビキチン遺伝子の発現が亢進することも見出された。以上の結果から、カドミウムで生じた細胞内の変性蛋白質を分解するために、ユビキチン化が亢進し、同時に、de novoのユビキチン生合成が高まると考えられた。一方、ゲンタマイシン(5mM)では、ユビキチン遺伝子の発現亢進は認められたものの、遊離型ユビキチンは増加、マルチユビキチン鎖は減少傾向を示し、ユビキチン化反応の亢進は認められなかった。シスプラチンは検討中である。 以上、カドミウムと異なり、ゲンタマイシンによるPtK1細胞傷害過程では、遺伝子レベルと蛋白レベルでのユビキチン動員に乖離が認められた。現在、薬剤が直接ユビキチン系を障害することを想定し検討を進めている。
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