研究概要 |
糸球体内皮細胞(GEN)によるNOの産生・放出に及ぼす伸展刺激の影響を検討した。伸縮性の高いシリコン膜上に培養したGENを,シリコン膜とともに10%,20%,30%,40%の各伸展率にて24時間静的に伸展し,ecNOSの蛋白レベルの発現をWestern blot法にて非伸展GEN(コントロール)と比較した。その結果,GENに対する24時間の静的伸展(static stretch)刺激が,0〜40%の伸展率の間で伸展率依存的にecNOSの蛋白レベルを減弱させることが明らかにされた。そこで次に,伸展刺激によってGENのNO産生が実際に低下するか否かを検討した。あらかじめ種々の期間(2分,0.5,1,3,6,12,24,48,72時間)30%の伸展刺激を加えたGENにブラジキニンを添加し,細胞内cGMP含量をELISA法にて測定し,それぞれ非伸展GENと比較した。その結果,24時間の伸展刺激をうけたGENでは,アセチルコリンによる細胞内cGMP含量の増加が,非伸展GENと比較し明らかに抑制されていた。これらの成績から,静的伸展刺激をうけたGENではecNOSの発現が低下しており,ブラジキニンの刺激によるecNOSを介したNO産生が抑制されている可能性が示唆された。現在,伸展GENにおけるecNOS蛋白の発現低下の機序を明らかにするため,伸展GENにおけるecNOSの遺伝子発現の低下をRT-PCRを用いて解析中である。さらに,ecNOSを介して合成されるNOはマクロファージ走化因子であるmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)の内皮細胞での発現低下を介して動脈硬化の進展抑制に寄与すると考えられていることから,伸展GENでのMCP-1の遺伝子発現を検討することにより,GENへの伸展刺激がecNOS発現の低下を介してGENでのMCP-1の発現を亢進させ,糸球体硬化の進展に寄与しうるかを検討中である。
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