1.ACE遺伝子挿入/欠失多型の挿入(I)alleleに存在する287bpのDNA fragmentの機能的意義について、以下の点を検討した。 (1)I alleleの存在によってリポーター遺伝子の発現量は減少するか? I allele、D alleleを持つ個人から得られたgenomic DNAをtemplateにI alleleに個有の287bpを含む(I)またはこれを欠く(D)ACE遺伝子のintron16をPCR法を用いて増幅した。IまたはDをEGFP発現vectorに組み込み、JEG-3細胞に導入後EGFPの発現量を蛍光顕微鏡を用いて観察した。その結果、Iを導入したJEG-3細胞では、Dを導入したJEG-3細胞に比較して明らかにEGFPの発現量が減少していた。 (2)減少した遺伝子の発現量は、decoyによって増加するか? Iを導入したJEG-3細胞からG418を用いてIがgenomに導入された細胞を選択し、この細胞にI alleleに個有の287bpに含まれるNREに相同性の高い塩基配列と同じ配列をもつDNA fragment(decoy)を導入したところ一部に強いEGFPの発現が生じた。 (3)I alleleに個有のNREと相同性の高い塩基配列に遺伝子の発減量を減少させる機能はあるか? 次にIまたはDをルシフエラーゼ発現vectorに組み込み、reporter gene assayを行いreporter geneの発現量を定量的に評価した。その結果、reporter geneの発現量はIを導入したJEG-3細胞では、Dを導入したJEG-3細胞に比較して70-50%減少していた。site-specific mutagenesisの手法を用いてIを組み込んだルシフエラーゼ発現vectorのNREと相同性の高い部分の塩基配列のmutantを作成し同様にreporter geneの発現量を定量的に評価した。その結果、mutantのreporter geneの発現量はwild typeと比較して増加し、Dを導入したJEG-3細胞と同程度まで回復した。 (4)NREと相同性の高い部分に、biding proteinは結合するか? NREと相同性の高い塩基配列をもつDNAfragmentとJEG-3細胞より抽出した核内蛋白溶液を反応後gel-shift assayを行った。現在までの結果は、I alleleに特異的に結合し、D alleleには結合しない蛋白が存在する可能性を示しているが、その再現性について検討中である。 以上現在までの成績は、ACE遺伝子挿入/欠失多型の挿入(I)alleleに存在する287bpのDNA fragmentになんらかの機能的意義が存在することを示唆したため米国腎臓学会総会(1997年11月サンアントニオ)でその一部を報告した。
|