本研究の結果は、 1. negative regulatory element(NRE)類似の塩基配列は、I alleleをもつ個人に共通して認められる塩基配列であること、 2. NRE類似の塩基配列を含む“Insertion"には遺伝子の発現を減少させる機能があること、 3. NRE類似の塩基配列には何らかの蛋白複合体が結合し遺伝子発現を調節していること、 を示した。これらの成績は、ACE遺伝子のIntron16に存在するNRE類似の塩基配列が、遺伝子の発現量を抑制するsilencerとしての機能をもつことを示唆した。 この成績は、これまでの統計学的研究が示してきた"この挿入/欠失多 型がACEの活性を調節するQuantitative trait locus(QTL)の一つである"という仮説を科学的に支持する成績であった。さらに、本研究の結果は、NRE類似の塩基配列が遺伝子の転写効率を低下させることによってその発現制御を行っている可能性を示している。この成績から、今後このNRE類似の塩基配列をもつdecoiをACE産生細胞に導入することによりACE遺伝子の発現が抑制されることを確認できれば、“この挿入/欠失多型がACEの活性を調節するQTLの一つである"という仮説を科学的に証明できるものと考えられる。 また、NRE類似の塩基配列の存在によるレポーター遺伝子の発現量の減少は約40%にすぎなかったことから、ACE遺伝子のIntronl6に存在する“Insert"にはこのNRE類似の塩基配列の遺伝子の発現量を抑制するsilencerとしての機能ばかりでなく他の機能も存在する可能性が示され、今後この様な点も検討する必要があるものと考えられた。 本研究の成果は、慢性腎不全などの“common disease"の発症や進行のが機構を遺伝子レベルで理解する上で有用な知見を示した。
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