細胞毒性以外のベロ毒素の生物活性として、高濃度を用いた場合に単球/マクロファージに対してサイトカイン産生誘導活性があることが知られている。我々は本研究により腸管上皮細胞様に分化したヒト由来の培養細胞に対しては非常に低濃度で同活性があることを明らかにした。すなわちCaco-2細胞を1〜100ng/mlのベロ毒素1(VT1)で刺激すると4時間以内にIL-8、MCP-1、-TNFαのmRNAの発現が顕著に亢進した。一方グリセルアルデヒド-3-りん酸脱水素酵素のmRNAの発現に変化は見られなかった。さらにVT1処理を24時間行うと、培養上清中のIL-8含量が増加することが確認された。またこのIL-8産生誘導は抗VT1抗体により中和されること、エンドトキシンでは産生誘導が見られないことなどから、この活性はVT1そのものによることがわかった。VT2を用いて同様の実験を行ったところ、VT1と同様にIL-8の産生誘導が観察された。またその濃度依存性はVT1、VT2ともに1ng/ml程度がピークであり、いずれの場合も10pg/mlと非常に低濃度からIL-8産生誘導活性が見られることがわかった。この濃度は最もベロ毒素感受性が高い細胞のひとつであるベロ細胞に対するベロ毒素の毒性発現に必要な濃度に匹敵する程に低く、生体内でも充分起こり得る現象と考えられた。次にVT1のアミノ酸を置換して細胞毒性をなくした無毒化VT1についてサイトカイン産生誘導活性を調べたところ、ほとんどIL-8産生誘導能を示さないことから、VTのサイトカイン誘導活性は細胞毒性と相関することが示唆された。以上、ベロ毒素は極めて低い濃度で腸管上皮細胞に対してサイトカイン誘導活性を示すことがわかった。この活性がベロ毒素の血管内皮細胞に対する細胞傷害性の亢進に関与し、その結果、溶血性尿毒症症候群を引き起こすという新しい仮説が考えられた。
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