本研究は羊胎仔慢性実験モデルを用い、胎児心拍の胎児仮死時のパワースペクトルの変化を調べ、その臨床応用をめざすものであった。平成10年度は羊胎仔を用い臍帯圧迫をくり返し胎児仮死モデルを製作し胎児仮死時におけるパワースペクトル成分の変化を調べた。胎児心拍変動のパワースペクトル成分は正常状態の時O.1Hzを中心とするlow frequency area(LF領域)とhigh frequency area(HF領域)に分けられることが知られている。これら、成人で、それぞれ交感神経、副交感神経の働きに連動していると考えられてきた。今回の研究では、慢性胎児仮死により生ずる低酸素血症ではLF領域の1時間あたりの最多頻度値が低下することと、その時間変化の振幅の統計分布が変化することが分かった。また、胎仔による胎児仮死モデルを用いて行われた急性仮死時における研究では、正常の状態では、ほぼ平行して見られていた胎児心拍のLF領域変化とHF領域の変化が、仮死の進行に伴い変動の相違を示した。特に、LF領域に無いHF領域の増大が臍帯圧迫直後、圧迫時後半・心拍回復時に見られるようになった。また、HF領域と心拍の微分変化の間にも同様の変化が見られた。これらは、急性胎児仮死進行に伴う化学受容体興奮、副交感神経の興奮、過呼吸性変動などによるものと考えられた。
|