研究概要 |
レチノイン酸欠乏、レチノイン酸過剰あるいはレチノイン酸受容体(RAR、RXR)遺伝子破壊マウス胎仔に心血管系異常が認められることから、レチノイン酸関連遺伝子の機能不全は心奇形誘発原因のひとつと考えられる。核内レチノイン酸受容体のレチノイン酸受容体(RAR)とレチノイドX受容体(RXR)は2量体を形成して標的遺伝子に結合しレチノイン酸シグナルを伝達すると考えられ心臓のRARおよびRXRの遺伝子発現を検討した。マウス胎仔心および成獣心でRARα、β、γ及びRXRαのmRNAは発達に従いこれら遺伝子の減少傾向が認められたが、出生後および成獣心にもその発現は続いた。成獣心でのRARβは、右心室が左心室の2倍強い発現が認められた。レチノイン酸(RA)の2つの細胞内蛋白(細胞性レチノイン酸結合蛋白:CRABPI,CRABPII)の両者の遺伝子欠失マウスではほとんど異常がみとめられず正常であったことが報告されている。CRABPI、CRABPII蛋白発現は発生初期から心筋に強い発現がみとめられ、RARとRXR蛋白も同様に心筋で発現が認められた。特に房室管の心内膜床部域と流出路の円錐動脈幹隆起部の直下の心筋に強い発現を認めたが、上皮性間葉細胞や心内膜にはいずれもその発現は認められなかった。ノザンブロットで、RA処理マウス胎仔心ではRARα,RARβ因子が増加した。胎仔心を心房、心室、流出路にわけてRA効果を検討したところ、各領域でRAに対する反応が異なることが判明した。マウス胎仔心と成獣心でのTransforming growth factor(TGF)-βのmRNAと抗原の発現検討では、発達中の胎仔心ではどの抗原も心筋全体に発現するが、特に、心内膜床、円錐動脈幹隆起部の直下にある心筋に強い発現が認められた。しかし、心ゼリーのある心内膜床、円錐動脈幹隆起部では発現は認められなかった。成獣心でのTGF-β1,2,3の発現は心房、心室、心室中隔によって異なっていた。マウス胎仔心ではレチノイン酸に対する反応が各領域で異なることが心奇形誘発原因を考える上で役立つと思われ、今後さらに詳細な検討を必要とする。
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