研究概要 |
肝移植医療におけるドナー不足を解消するための手段として心停止後ドナーからのグラフト肝採取が考えられる。しかし、心停止ドナーの肝臓に加わる温虚血はグラフト肝機能を大きく障害し、臨床での安全性は確立されていない。そこで本研究では、我々が既に開発した心停止ドナーからのブタ肝移植モデルを用いて、薬剤投与によるグラフト肝機能保護法を検討した。我々がこれまでに試みた薬剤は、免疫抑制剤であるが肝虚血灌流障害にも保護効果を有するといわれるFK506、肝虚血再灌流障害におけるメディエーターの1つである血小板活性化因子(PAF)に対する受容体拮抗剤E5880、エンドセリン受容体拮抗剤であるTAK-044などである。我々のブタ肝移植モデルでは温虚血時間の許容限界は60分と90分の間にあると考えられるため、温虚血時間を90分に設定し、薬剤投与がグラフト肝機能に与える影響を比較検討した。 その結果、無処置群が全例術後12時間以内に死亡したのに対して、FK506、E5880、TAK-044のそれぞれ単剤投与群で12時間の急性期を乗り切り長期生存する例がみられた。さらにFK506とE5880またはTAk-044とE5880を組み合わせて投与した場合は全例が2日以上生存し、無処置群に比べて有意に生存率が向上した。各薬剤投与により移植後早期の血清GOT,LDHの上昇が抑制され、特に併用投与群で無処置群に比べて有意に低値を示した。以上の結果より、臨床例でも、いくつかの有効な薬剤を組み合わせて投与することによりグラフト肝機能を保護し、心停止ドナーからの肝移植の安全性を向上させ得る可能性が示唆された。さらに、血流再開直前にリンス液で洗い流した保存液中のGOT,LDH濃度は生存群では死亡群に比べて有意に低く、この保存液中の濃度を測定することにより移植前にグラフト肝バイアビリティーが評価できる可能性が示唆された。
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