研究概要 |
大腸癌が原発巣より門脈血中に侵入し、肝臓に接着・増殖し最終的に肝転移を形成すためには、いくつかのステップが考えられているが、門脈血中に侵入した癌細胞すべてが転移を形成するわけではなく、死滅する癌細胞も多く存在する。例えば、血液中に侵入したメラノーマ細胞であるB16は、0.1%以下の割合でしか転移を引き起こさない。癌細胞が死滅する理由に、機械的外傷・癌細胞自体の不安定さ・活性酸素の関与・生体の防御機構(T細胞・NK細胞・マクロファージの関与)が考えられている。今回我々は、大腸癌細胞が門脈血中で初めて肝類洞細胞と接触し、肝転移がコントロールされると仮説をたて、大腸癌肝転移抑制メカニズムを検討し若干の知見を得たので報告する。 【目的】肝転移抑制メカニズムを解明するため高転移大腸癌株(CX-1)・低転移大腸癌株(Clone A)と分離培養した肝類洞壁内皮細胞(SEC)との相互関係をin vitroで検索した。 【方法】(1)スイスマウスからSECを分離初代培養。(2)SECとヒト大腸癌株(高/低転移株)との接着試験および経時的接着率。(3)SECとヒト大腸癌株との培養下での、大腸癌細胞の形態変化と生存率を検討。 【結果と考察】SEC分離初代培養の結果は,純度92%・活性度97%であり、活性は最長7日間低下することはなかった。この分離培養の実験系は十分に、in vitroの実験に使用できるものと判断された。 SECとClone A/CX-1との接着率(90分)は、それぞれ50%/21%で、有意(p<0.05)に低転移大腸癌細胞がSECに接着した。興味深いことに,経時的な接着率では,CX-1の接着率に変化がないのに比し、Clone Aの接着率は90分以上経過すると有意に低下した。このことは、低転移大腸癌細胞はSECに有意に接着し何らかの原因で遊離することが示唆された。次にその原因を追求するために、その形態的変化を長時間培養の下に観察した。CX-1は24時間経過すると細胞同士が癒合し集落を形成するのに対して,Clone Aは30時間経過するまで形態変化を認めなかった。これは、SECと培養すると,Clone Aは増殖できない結果であった。上記結果をcell viabilityで証明するため、metabolic activityを検索したところ、CX-1は24時間経過してもなおかつ90%以上の活性を示した。しかし、Clone Aは4時間経過後から活性は低下し,24時間経過した段階では65%と有意に低下が認められた。このことは、肝類洞壁内皮細胞が,低転移性大腸癌株であるClone Aを死滅に導き、肝転移に際し抑制的に作用していることを示唆すると思われた。Fidlerらによれば、癌細胞の肺転移抑制にnitric oxideの関与が重要であると報告されている。今回我々も、nitric oxideを測定、その抑制剤であるNMMAを使用し、Clone A細胞のviabilityが改善されることを、確認している。 【結論】肝類洞壁内皮細胞は、ヒト大腸癌肝転移にnitric oxideの関与により抑制的に働くと考えられ、大腸癌肝転移抑制メカニズムを知る上で重要な一見解と思われた。
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