研究概要 |
正常小腸粘膜や腸間膜リンパ節に大量に存在するリンパ球は,短腸症候群の患者ではほとんど存在せず,本来機能すべき経口免疫やIgA分泌の代償機能が働いている.本年度の研究経過としては,まず,短腸症候群の病態を臨床例で検討した.当院第1外科にて大量小腸切除がなされ,中心静脈栄養の有無に関わらず経過観察されている症例について,病歴や手術後経過の聴取と消化管免疫系検査や生理機能検査を行ったところ,免疫学的には代償機構が検査上ほぼ保たれているものの,消化吸収障害や排便障害等の生理機能障害が顕性となっており,これは術後早期から発現し数年経っても改善傾向が乏しかった.経過観察中の臨床例における組織学的検索は,生検組織がわずかしか採取できず詳細な観察はまだ終了していないが,今後症例数を増やして,組織学的検索に加えて免疫組織化学的観察を継続している.次に,短腸症候群に近似した動物実験モデルの作成と評価に関しては,純系繁殖ラットを用いた回腸切除やパイエル板切除を行い,術後数週間の小腸粘膜に於けるIgA含有細胞数やリンパ球サブセットの量的・質的変化を免疫組織化学的に観察中である.このように本年度の研究経過としては,臨床例における生理学的,免疫学的,病理組織学的検索と動物実験を並行して実施している.短腸症候群の病態を明らかにしつつ,移植後のリンパ球トラフィッキングと新しく形成されるホ-ミング機構を解析することによって,小腸移植に特異的な拒絶反応解明に近づきつつあると考えられる.
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