研究概要 |
抗癌剤であるtopoisomerase II(Top II)阻害剤は従来、DNAとtopo IIと間に共有結合を形成し、この三者によるcleavable complexesがtopo IIの酵素活性(DNAの転写、複製)を阻害するとされてきた。よってtopo II耐性の作用機序としてcomplex形成能の低下が主に検討されてきた。しかし、complexを安定化させた後、これらの薬剤(complex-stabilizing topo II inhibitors)がいかなる機序で細胞死をもたらすかは不明であった。われわれはDNAとcleavable complexを形成しない新しい種類のtopo II阻害剤(catalytic type topo II inhibitors)のひとつであるmerbarone(MB)に対する耐性培養細胞株を世界で初めて樹立した。Catalytic inhibitorsに対する耐性を考察することはcomplex安定化作用以外の新しいtopo IIの酵素作用、topo II阻害剤に共通する新しい耐性機構を解明する手掛かりとなる。そこで樹立した耐性細胞を用いて親株と比較したところ、 (1) complex-stabilizing inhibitorsにも交叉耐性があり、topo I阻害剤の中でSN-38に特異的に交叉耐性がある。(2)complex安定化能は耐性機序に関与していない。(3)Pgp,mrp等細胞膜輸送の変化による耐性ではない。(4)topo II活性は低下し、topo I活性は上昇した。(5)Topo IIのpromotorにpointmutationがあった。(6)同調培養細胞を用いた細胞周期の観察から、topo II阻害剤により選択的にG2/M期の移行が阻害されるが、耐性細胞ではその作用が弱い。この際p34^<CdC 2> kinase活性は亢進していた。(7)耐性細胞ではp53wtタンパクの発現が低下していた。(8)p21タンパクの発現は不変であった。(9)この際、耐性細胞ではM期のchromatinの不整、topII局在の不均一化がみられ、(10)しかし、これまでのpreliminaryな実験でG2/M regulatorsの14・3-3,Chk1の発現に差はなく、p53wtをtransfectionしても耐性細胞株に感受性の増強は認められなかった。以上の所見を得た。TopII阻害剤の抗癌剤耐性機構にP21を介さず、P53を介したG2/M checkpoint機構が正常に作用せず、M期におけるchromatinの凝集時の構造タンパクとしてのtopIIの作用に異常を来していることを明らかにした。その作用機序についてなお詳細な検討が必要である。
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