研究概要 |
膵胆管合流異常症では,胆道内の胆汁うっ滞と逆流した膵液の相互作用が発癌の誘発に関与していると考えられる。そこで,ハムスターの胆嚢内に3-methylcholanthrene(MC)含有のpelletを留置し,pelletに胆汁酸(ケノデオキシコール酸)と膵酵素(トリプシン)をポリエチレングリコールを用いて混合させ,胆汁酸と膵酵素が胆嚢癌発生に及ぼす影響を検討した。誘発胆嚢癌の発生率は,MC単独投与群で62.5%,MCにケノデオキシコール酸を添加した群で80.0%,MCにケノデオキシコール酸とトリプシンを添加した群では88.9%であった。対照群では癌の発生は認められなかった。次に発癌部の組織学的検索では,MC単独投与群では8例中5例ともに乳頭腺癌で,このうち2例は中分化型管状腺癌を合併し肝実質に浸潤していた。また,他の2例も胆嚢粘膜の異形成性変化が認められた。MCにケノデオキシコール酸を添加した群では10例中8例の発癌例の中で,乳頭腺癌が7例,高分化型管状腺癌が3例であり,2例では両組織型が混在していた。MCにケノデオキシコール酸とトリプシンを添加した群では9例中8例の発癌例の中で,乳頭腺癌が3例,中分化型管状腺癌が4例,未分化型管状腺癌が1例であり,管状腺癌は間質成分の多い硬性癌で強い浸潤傾向が認められた。一方,癌抑制遺伝子p53蛋白の発現は,非発癌例では1例も認められなかった。発癌例では,p53蛋白の発現はMC単独投与群で5例の発癌例中2例(40.0%),MCにケノデオキシコール酸を添加した群で8例の発癌例中4例(50.0%),MCにケノデオキシコール酸とトリプシンを添加した群で8例の発癌例中3例(37.5%)であり,それぞれの群で有意差は認められなかった。しかし,その発癌過程には遺伝子の変化を伴っている可能性が示唆された。
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