研究概要 |
転移性肝腫瘍は,大腸癌死因の約1/3を占める重篤な病態で,その機構の解明が必須である。転移形成には,癌細胞の浸潤・血管新生・接着・増殖などの諸段階が存在する事が判明し、遺伝子異常・各種増殖因子の関与も報告されてきたが,依然そのメカニズムの詳細は不明である。今年度我々は血管新生(angiogenesis)に注目しその発現について、発癌プロセスがよく検討されている大腸腺腫を用いて検討した。【目的】大腸癌 carcinogenesisに於けるangiogenesisの発現を検討する為、血管新生因子として知られるPD-ECGF及びVEGFについて種々の分化度を示す大腸腺腫を用いて発現を検討した。【対象及び方法】(1)対象:当院にて大腸切除術を施行した大腸癌症例20例と内視鏡的ポリペクトミ-を施行した、inflammatory polyp20例、hyperplastic polyp20例、adenoma60例(mild atypia20例、moderate atypia20例、severe atypia20例)、carcinoma in adenoma20例を対象とした。(2)方法:標本はホルマリン固定パラフィン切片で、(1)抗ヒトTdRPase抗体(2)抗ヒトVEGF抗体、(3)p53抗体(4)Ki-67抗体を一次抗体として用いてABC法で免疫組織染色した。【結果】(1)大腸腺腫におけるPD-ECGF発現:inflammatory polyp及びhyperplastic polypにおいては発現を認めなかったのに対し、tubular adenoma,carcinoma in adenomaでは、その腫瘍細胞の一部の細胞質と核に発現を認めた。更に、tubular adenomaにおいてはmild atypia,moderate atypia,severe atypiaとなるに従い、有意に発現が増加した。(2)大腸腺腫におけるVEGF発現:inflammatory polyp・hyperplastic polyp・tubular adenomaにおいてVEGFの発現は認めなかった。carcinoma in adenoma及び大腸癌においてのみ発現が観察された。(3)PD-ECGF発現は、Ki-67発現と統計学的に有意な正の相関関係にあった。【結論】大腸癌carcinogenesisに於いて血管新生現象は、早期から発現する事象であると推察された。
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