ラットに完全静脈栄養または経腸栄養を行って外科侵襲後のbacterial translocation(BT)やサイトカイン産生について検討した。 【対象と方法】180〜220gのSD雌性ラットに胃瘻チューブまたは頚静脈カテーテルを挿入し、完全経静脈栄養(PN群)または完全経腸栄養(EN群)を開始した。PN群ではハイカリックおよびテルアミノ製剤を、EN群ではエンテル-ド製剤を用い、両群の投与カロリー、窒素量が等しくなるように調整した。またsham operationとしてPN群では開腹、EN群では頸部切開操作をそれぞれ加えた。術後4日目にこれらのラットの腹腔内に0.2mg/100gのザイモザンを注入し腹膜炎を惹起した。さらに18時間後に5x10^8個の大腸菌を胃内投与し、その4時間後に血液、肝、脾、腸間膜リンパ節(MLN)を採取した。各臓器の細菌を培養するとともに、血中、臓器homogenate中のIL-6、INFγ濃度を測定した。 【結果】PN、EN群における各臓器の培養細菌数(CFU/gram)はMLN(117±162vs46±68)、肝(20±20vs6±5)、脾(191±358vs40±15)とPN群でわずかに高値を示していたものの有意差はなく、このモデルでは両群のBTに明らかな差異は認められないものと考えられた。血中IL-6はPN、EN群ともに検出されなかったが、肝のIL-6濃度はPN群で明らかに高値であった(136±44vs38±8μg/g)。一方、血中INFγ濃度はEN群で有意に高く(8±10vs967±497pg/ml)、肝(386±98vs602±302pg/g)やMLN(67±31vs127±65pg/g)のINFγ濃度もEN群で有意に高かった。 【考察】以上の結果から経腸栄養法は経静脈栄養法に比べて侵襲後の局所や全身のINFγ産生を亢進させ、逆に肝におけるIL-6の産生亢進を抑制することが示唆された。栄養投与経路の差異は、生菌で評価したBTに明らかな差が認められない場合でも、局所や全身のサイトカイン反応のmodulationに大いに寄与するものと考えられた。
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