【背景】昨年までの検討で、ラットの術後腹膜炎モデルにおいて、開腹術後24時間後または72時間後に腹膜炎が起こった場合では、前者のほうがbacterial translocation(BT)や、ひき続く肝や腸間膜リンパ節のサイトカイン反応がより著明に惹起されることが判明した。またこれらのモデルで、経腸的な栄養投与をおこなうと経静脈的な投与にくらべて、BTやサイトカイン反応が抑制されることも明かとなってきた。すなわち、術後に腹膜炎のようなsecond attackが加わると術後早期ほど重篤な結果を招くが、この時期に経腸的な栄養投与を行うと、生体反応が有利な方向に制御されることが示唆された。つまり、術後24時間以内の早期に経腸栄養を行うことに意義があると考えられる。したがって、本年はこれらの実験結果をもとに、臨床的に消化器術後に24時間以内からの経腸栄養投与が可能であるかを検討した。【方法】対象は胃全摘術が施行された患者21症例で、術中、空腸に経腸栄養チューブを挿入し、術後24時間以内に経腸栄養を開始した。投与量は第1病日から300kcalで開始し、第3病日から600kcal、第5病日から1200kcalとすることを基本としたが、患者の状態によっては投与量を減少させた。【結果】初期の10例中6例は予定どおりの経腸栄養施行が可能であったが4例は第5病日に腹満を認め、3例は投与量を900kcalへ減少させて継続したが、1例は中止した。よって以後の症例は第5病日900kcalで施行した。全症例で、排ガスは平均4.2日で認められ、平均6.7日で排便を認めた。重篤な下痢のために経腸栄養投与を中止した症例はなかった。【結語】術後のsecond attackは、術後早期に与えられるほど、生体に対する影響が大きいことが実験的に示唆され、経腸栄養はこれらを軽減する。したがって術後早期にこそ経腸栄養を行うことが特に意義深いものと考えられた。臨床的にも開腹術後24時間以内の経腸栄養は少量から開始すれば十分可能であることが確認された。また投与量は、第5病日に900kcal程度とするのが安全であると考えられた。
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