ニホンザルの尺骨神経を採取し、グリセリンによる凍結保護装置を行った後、コンピューター制御プログラミングフリーザーにより段階的に-70℃まで凍結し、-196℃液体窒素保存タンク内に保存した。このように段階的凍結保存した神経を急速解凍し、光顕による形態学的分析を行った。急速凍結保存群では、著名な膨化を見るが、段階的凍結保存では一部に膨化を見るが、ミエリン鞘の形態は比較的保たれていた。また、段階的凍結後、液体窒素タンク内で1週間から最長1年5ヶ月まで保存した神経の状態においても、経時的にミエリン鞘の形態は膨化するようだが、急速凍結群とくらべその程度は軽微であった。 ついで、ニホンザルの一側の尺骨神経を切断しそこへ同種神経移植を行った。第1群は、採取した尺骨神経をfresh allograaftとして移植した(新鮮群)第2群は段階的凍結保存した神経を移植した(保存群)。第3群は、fresh allograftとして移植するがhostにサイクロスポリンAによる免疫抑制を行った(免疫抑制群)。移植4日前よりCyclosporin Aを25mg/kg/day傾口投与したのち、他のサルから同種神経移植を行ない、移植後5mg/kg/dayで4ヶ月間持続経口投与した。手関節より中枢2cmの部で尺骨神経を1cm切除し、他のサルから採取した長さ3cmの尺骨神経を、余裕のある状態で手術用顕微鏡下に8-0黒ナイロンで神経上膜縫合を行った。術後4ヶ月で移植神経および移植部より末梢1cmの尺骨神経を採取し、グルタールアルデヒド固定、エポン胞理、1μ切片作製、トルイジン青染色を行ない、光学顕微鏡標本を作製した。有髄化された軸索は保存群で免疫抑制群には劣るが、その数は多かった。移植神経および縫合部より1cm末梢部での単位面積に占める神経線維の面積比、そして神経線維の直径を測定した結果、新鮮群、保存群、免疫抑制群はそれぞれ統計学的に有意差を認めた。段階的凍結保存した神経同種移植では、新鮮同種移植とくらべ良好な神経再生がみられた。しかし、免疫抑制剤を投与した同種移植とくらべ、神経再生は劣っていた。 また、尺骨神経支配の小指外転筋を採取し、筋組織の光学顕微鏡標本を画像解析した結果、小指外転筋、第一背側骨間筋両者において各群の間に形態学的な差は見られず、また、筋萎縮像や筋線維組織の大小不同などの所見は部分的に見られるものの、明らかな差異は観察されず、いずれの群でも有意差はみられなかった。
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