研究概要 |
申請者は、costimulatory signalに着目し抗B7-1(CD80)、抗B7-2(CD86)抗体を用いてclonal anergyを誘導し、これら接着因子の関与による肝移植免疫機構の解析を、生体内培養モデルとされる脾臓内肝細胞移植を用いて解明することを目的とし研究を行った。 【方法】(1)実験動物:ドナーには、5週齢のC57BL/6(B6)およびFasを欠損しているC57BL/6 lpr/lpr(B6 lpr)マウスを用い、レシピエントにはC3H/He(C3H)およびFasLを欠損しているC3H/He glg/gld(C3Hgld)マウスを用いた。 (2)肝細胞分離と肝細胞移植:ドナーの肝臓からコラゲナーゼ灌流法により分離した肝細胞2x10^6個(viability 90%以上)をレシピエントの脾臓内に移植した。抗CD80抗体(RM80,ラットIgG2a)と抗CD86抗体(PO3,ラットIgG 2b)を、各100μg/マウスを術直後より5日間連日腹腔内投与した。移植後7日目にPAS染色標本で脾臓内の肝細胞の生着を評価した。 【結果】(1)移植後7日目における脾内移植肝細胞:B6細胞は抗CD80/CD86抗体投与にもかかわらず、抗体を投与しない群と同様にC3Hマウスの脾臓内で7日以内に完全に拒絶された。脾臓内には拒絶された肝細胞を貧食した多数の巨核球のみを認めた。つぎに移植肝細胞拒絶におけるFasのかかわりを検討するために、B6lprマウスの肝細胞(Fas欠損)をC3Hマウスに移植した。B6lpr肝細胞は、抗体を投与しなければC3Hマウスの脾臓内で7日以内に拒絶されたが、抗体投与によりPAS陽性の肝細胞の生着を確認することができ、その生着は移植後50日目においても確認することができた。また、B6マウスの肝細胞は抗体非投与ではC3Hgldマウス(FasL欠損)の脾臓内で7日以内に拒絶されたが、抗体投与によりその生着を確認することができた。 (2)抗CD80/CD86抗体によるallo反応性T細胞の増殖抑制:移植後20日目のレシピエントT細胞のallo抗原への反応をin vitroで測定した。B6lpr肝細胞を移植し抗体を投与しなければ、レシピエントのT細胞はドナー抗原に対し強い反応を示した。しかし、抗CD80/CD86抗体投与により、レシピエントT細胞のドナー抗原に対する増殖能は有意に低下し、自己への反応と同程度までに抑制された(p<0.001). 【考察】今回の検討で、肝細胞移植に抗CD80/CD86抗体投与のみではその結果が得られないことが明らかになり、移植肝細胞の拒絶には、CD28非依存型の経路が関与していることが示唆された。
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