研究概要 |
はじめに:癌周囲では正常組織とは異なる局所環境が形成され、腫瘍増殖に必要不可欠な腫瘍血管新生が亢進している。細胞浸潤に必要なmatrix metalloproteinase(MMP)の産生、腫瘍、免疫応答を司るIL-12の抑制,血管内皮に発現する接着分子E-selection(CD62E)のsoluble formの増加、血管内皮の増殖因子であるVEGFの産生など、様々な現象が報告されてきた。本研究では、背部に透明窓を装着したマウスモデルを用い、これら各因子の腫瘍血管新生に及ぼす影響を検討した。 方法と結果:ヒト膵癌細胞株に対してはSCIDマウスを、マウス大腸癌C26にはBALB/cマウス、メラノーマB16にはSCIDマウスを用いた。マウス背部にチタニウム製の透明窓を装着し、皮下の血管網を生体顕微鏡システムで観察できるモデルを作製した。透明窓内に腫瘍を移植し経時的に血管新生過程を評価した。[MMP]MMP inhibitor投与群では血管密度、血管径とも有意に低値でC26の腫瘍増殖も抑制された。また新生血管の形成不全が見られ腫瘍に壊死部が出現し、その作用はTNP470に比較し強力であった。[IL-12]ヒト膵癌細胞株PKにアデノウイルスベクターを用いIL-12遺伝子を導入してIL-12/PKを作製した。IL-12/PKでは有意に血管新生が抑制され腫瘍増殖も見られなかった。この現象は抗IL-12抗体または抗IFN抗体の投与により消失した。[E-selectin]B16にE-Selectin soluble・fromのcDNAを導入し、B16/Sを作製した。B16/SではB16に比較し有意に腫瘍増殖が促進したが、selectinアンタゴニストの投与により B16/Sの増殖は抑制された。[VBGF]VEGFレセプターのsoluble formの cDNAを組み込んだアデノウイルスベクターを作製した。ウイルスベクターを投与したマウスでは腫瘍血管新生が有意に抑制された。 考察:腫瘍血管新生には癌微小環境を形成する様々な因子が影響を及ぼしている。癌の個性に見合った抗腫瘍癌血管新生療法を確立するとともに、各因子の血管新生形成過程における役割を明らかにしていくことが必要である。
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