平成10年度はマウスの線維肉腫株MC1にマウスの分泌型TGF-β受容体遺伝子(SRII)を導入して、その細胞株(MC1SRII)の特性を調べた。 1. 平成9年度に作製した遺伝子導入株MC1SRIIをさらに限界希釈法でクローニングしたところ、16個のクローンを得た。Northern blottingでSRII遺伝子の発現を調べたところ、15クローンはSRIIを発現しておらず(MC1Neo)、SRIIを発現しているクローンは1個であった(MC1SRII)。 2. MC1Neoは15クローンとも親株のMClと同様小型の紡錘状細胞で、confluentになると細胞同士が重なり合い多数のcolonyを形成した。これに対してMC1SRIIは大型の紡錘状細胞で細胞同士の重なり合いはほとんど見られず、極性をもって配列していた。しかし細胞増殖の接触阻止は認められず、ほとんど重層することなく高密度に増殖した。増殖速度にはほとんど差を認めなかった。 3. MC1Neoに対するTGF-βの影響を打ち消すことによって、MC1SRIIと同様の特性を示すようになるか検討するために、TGF-βに対する中和抗体を培養液に加えてMC1Neoを培養した。しかし形態に変化は認められなかった。ただし中和抗体の量が十分であったという保証はない。 4. またMC1SRIIの形態変化が、可溶型受容体によってTGF-βの作用が打ち消された結果であるのか検討するために、MC1SRIIを高濃度のTGF-βを含む培養液で培養した。しかし形態に大きな変化は見られなかった。 5. MC1NeoとMC1SRIIを同系マウスC57BL/6に皮下移植したところ、いずれも腫瘍を形成したが、増殖速度はMC1SRIIの方が遅い傾向があった。 今後、この特性の変化が何によってもたらされているのか検討する予定である。
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