本研究は術中に腹腔内に存在する微少な胃癌細胞を、癌細胞に高度な特異性をもつテロメラーゼ活性を測定することで検出し、胃癌切除後の腹膜再発の高危険群を同定しようするものである。本研究により腹膜再発の予測が可能となれば、再発の高危険群には術後早期からの化学療法の導入など、治療の個別化が可能となり、予後の向上につながるものと思われる。研究初年度の平成9年度は腹腔内洗浄細胞診の結果とテロメラーゼ活性との相関を検討することから始めた。すなわち、漿膜浸潤(±)〜(+)と判断される11例の胃癌症例の開腹時に左横隔膜下、右肝下面、ダグラス窩の3ケ所に生食100mlを注入し、30mlを細胞診、50mlをテロメラーゼ活性測定用に採取した。また、胃癌術後癌性胸膜炎患者1例において癌性胸水につき、同様の比較検討を行った。細胞診はパパニコロウ染色にて検討、テロメラーゼ活性測定用検体は遠心分離、細胞成分をペレットとして採取、凍結保存した。一定量の検体が集積された時点で凍結保存検体を解凍し、TRAPアッセイ(Oncor TRAP-ese^<TM>テロメラーゼ活性検出キット使用)手順に従い、テロメア伸長反応とPCR法によるテロメアの増幅後、その産物を電気泳動に供し、オートラジオグラフィーによりテロメラーゼ活性の有無を確認した。 結果は細胞診陽性であった14検体のうち、テロメラーゼ活性陽性であったものはわずか3検体のみであった。この結果は検体中の微少癌細胞の検出にはテロメラーゼ活性測定の方が細胞診よりも鋭敏であろうという当初の予想と全く反するものである。テロメラーゼ活性測定に供した検体中の細胞数の問題、Taqポリメラーゼ阻害物質混入の可能性、などがその原因と考えれれた。明年度以降はこれらの点を考慮にいれ、さらに症例を追加して同様の検討を行うとともに、順次、患者予後との関連を調査していく予定である。
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