本研究は癌細胞に高度な特異性をもつテロメラーゼ活性(T活性)をTRAPアッセイにより測定することで、胃癌切除後の腹腔内に遺残する微少な癌細胞を検出し腹膜再発の高危険群を同定しようするものである。本研究により腹膜再発の高危険群の予測が可能となれば、術後早期からの化学療法など、治療の個別化により予後向上につながるものと思われる。過去2年間に引き続き症例を蓄積、漿膜浸透±〜+の胃癌症例計26例につき開腹時に左横隔膜下、右肝下面、ダグラス窩の3ヶ所に生食を注入、細胞診(cy)とT活性測定を行い、両者の判定結果を検討した。胃癌術後癌性胸膜炎患者1例の癌性胸水および5例の術後ドレーン排液につき、同様の検討を行った。また、これまで蓄積された症例の予後を検討した。結果:cy陽性23検体中、T活性陽性は3検体のみと、検体中の微少癌細胞の検出にはT活性測定の方がcyより鋭敏であろうという当初予想に反する結果であったが、他方、cy陰性80検体中、T活性陽性を4検体に認め、本研究の意義を支持する結果も得られた。短い観察期間ではあったが、cy陽性例に腹膜再発を認めたほか、cy陰性/T活性陽性の1例が腹膜再発が強く疑われており、今後の経過を注視している。また、同じくcy陰性/T活性陽性の別の1例についても注意深く経過観察中である。考察:cy陽性検体でのT活性検出率の低さは検体処理過程におけるT活性の失活(凍結と解凍の繰り返し、検体採取時における蛋白消化酵素の混入)、高蛋白濃度検体においてはPCR阻害防止のための、過度の検体希釈などが考えられ、今後はこれらを考慮したT活性測定法の改良が必要である。一方、cy陰性/T活性陽性を4検体(4例)に認めたことは本研究の有用性を示す結果である。このような症例が腹膜再発をきたすならば本研究の初期の目的を実現すものであるからである。
|