研究概要 |
本年度は、消化器癌のなかでも近年発生率の高い大腸癌に注目し、ヒト大腸癌の培養細胞株を用いて、Baf-A1がアポトーシスを介してその増殖能を抑制することが可能か否かを研究した。[材料と方法]1)癌細胞株:7種類のヒト大腸癌細胞株(SW48,SW480,SW620,caR-1,colo320-DM,HT29,DLD-1)を使用した。2)薬剤:Bafilomycin A1は和光純薬社より購入した。3)増殖能の測定:種々のBaf-A1濃度に対する培養細胞の増殖能をMTT assayで評価した。4)アポトーシスの有無:DNA抽出後にアガロースゲル電気泳動を行い、DNAラダーの有無を観察した。またDNAの細胞周期をフローサイトメーターで解析し、subG0/G1 phaseの占める割合をみた。さらに、形態学的観察としてサイトスピン法を用いてHE染色を行った。さらに、癌細胞の細胞膜表面のphosphatidylserine(PS)表出の程度をAnnexin V Apoptosis Kit(CLONTECH社製)で検討した。[結果]ヒト大腸癌細胞株に対するBaf-A1のID_<50>(72時間培養)はSW48で10nM,SW480で20nM,SW620で25nM,CaR-1で10nM,colo320-DMで25nM,HT-29で5nM,DLD-1で10nMと、いずれも5nMから25nMの間で高い感受性を示した。またいずれの細胞もBaf-A1処理により形態学的に細胞の縮小(cell shrinkage),核の濃縮と分断(unclear fragmentation)が観察された。また、フローサイトメーター法でもコントロールに比し24時間目でsub G0/G1の占める割合が増加してきた。さらに、これら核の変化とほぼ同時にBaf-A1処理された細胞にPS表出が確認された。[まとめ]以上、液胞型プロトンポンプはアポトーシスを介して大腸癌細胞の増殖を抑制したことより、今後大腸癌における化学療法として、本薬剤を用いた新しい治療戦略の可能性が示唆された。
|