研究概要 |
本年度は、bafilomycinA1と同様にV-ATPaseのinhibitor作用を有する25-C Prodigiosinを用いて、Capan-1膵癌細胞のヌードマウス皮下移植腫瘍における増殖抑制効果について研究し、bafilomycin Aiによる抗腫瘍効果と比較検討した。さらに、p53変異株でアポトーシス抵抗性の強いHT-29大腸癌細胞株を用いて、bafilomycin A1によるアポトーシス実行過程での形態学的変化やアポトーシス関連分子の関与についても研究した。[研究1]まず、Capan-1細胞を1x106個ヌードマウスの背部皮下に移植し(n=30)、移植10日目に腫瘍の大きさが60mm^3前後の21匹を選別して、25C Prodigiosin無投与群(n=7),0.1mg/kg連日皮下投与群(n=7),1.0mg/kg連日皮下投与群(n=7)の3群に分けて腫瘍の増殖程度を観察した。その結果、投与21日目以降で、無処置群の推定腫瘍堆積が884±328mm^3であったのに対し、1.0mg/kg投与群では507±190mm^3と有意(p<0.05)に増殖が抑制された。この効果は、bafilomycin A1とほぼ同等であった。体重の推移は統計学的に有意差はみられなかった。[研究2]次に、HT-29を用いて、アポトーシスの関与およびその経時的推移について検討した。細胞膜表面の微絨毛の減少およびブレブ形成、細胞膜表面へのPS基の表出はbafilomycin A1処理の24時間目から、細胞の縮小および核クロマチンの凝集や分断化は処理48時間目から観察された。アポトーシス関連蛋白の経時的推移では、bafilomycin A1処理でp53蛋白の発現は増強せず、またp21^<Wafl>蛋白の発現も終始誘導されなかった。Bcl-2、Bcl-XL蛋白の発現程度には変化が見られず、Bax蛋白は発現しなかった。カスパーゼ蛋白分解酵素ではカスパーゼ3、カスパーゼ9は処理後48時間目から活性体が観察されたが、カスパーゼ6、カスパーゼ7の活性体は認められなかった。加えて、この一連のアポトーシスの誘導はイミダゾール投与によって抑制されなかった。これらの成績より、バフィロマイシンA1によるアポトーシスは、p53蛋白や細胞周期とは無関係で、カスパナーゼ9およびカスパナーゼ3を介したミトコンドリア依存性経路であることが示唆された。[まとめ]液胞型プロトンポンプを標的にしたbafilomycin A1を用いての消化器癌治療の有用性が示唆された。
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