研究概要 |
肝実質細胞や,類洞壁細胞などの非実質細胞の細胞間に存在し,細胞の接着や遊離を制御する細胞外マトリックス(ECM)の臓器構造再構築(remodeling)における役割に着目した。このECMにありながらいまだ詳細な研究が行われていないものにテネイシンがある。テネイシンはECMのいたるところに存在するコラーゲンやフィブロネクチンなどの他の分子に比べ,発現が一過性でかつ局在性であるという特徴を有しておりECM制御機構の主役をなしている可能性がある。そこで発現パターンの異なるこれらECM分子をプローブにして,テネイシンを中心としたECMの分子機構から肝切除後の肝小葉構造再構築(remodeling)の機序を検討した。テネイシン遺伝子欠損(TN knockout)マウスの肝切除後1,2,3,4週の再生率はそれぞれ83.3,94.4,99.5,101.9%とコントロールである野生型(Wild)マウスの66.2,75.3,77.1,79.2%に比べ明らかに高値を示し,特に術後1週では両群間に有意の差を認めた。しかし,術後1週の残存肝蛋白含有量やDNA含有量は両群間に差を認めず,TNの発現は肝切除後の肝再生を抑制している可能性が示唆された。免疫組織染色ではTN蛋白は主に中心静脈近傍の類洞壁に発現を認め,肝切除後の経時的変化では,肝切除後1週に発現の増強が認められた。そこでin situ hybridizationを用いてTN-mRNAの発現を,先の免疫染色にて濃染が認められた中心静脈域でみると,肝切除後1週で中心静脈近傍の類洞壁,特に伊東細胞に強いTN-mRNAの発現を認めた。一方,lamininなどの他のECMの発現は,中心静脈域よりも門脈,胆管壁細胞の基底膜での発現が強く,肝切除後の肝再生における役割はTNと他のECMとは異なることが示唆された。以上よりTNは肝細胞増殖抑制の役を担い再生肝再構築に関与しているものと考えられた。
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