外傷や外科手術後などの侵襲下の病態へのbacterial translocationの関与が想定されているが、待機的な消化器手術後の腸粘膜integrityの変化やその機序とその管理法に関しては、必ずしも明らかでない。そこで、本研究では、1)腸粘膜を採取せずに、血中濃度の測定により腸粘膜integrityを反映するとされる血中diamine oxidase(DAO)活性測定法に関して健常人および臨床例を用いた基礎的検討を行い、2)その結果に基づき通常の消化器手術後症例を用いて血中のDAO活性・エンドトキシン濃度・炎症性サイトカイン濃度を測定し、侵襲反応が強く血中IL-6濃度、エンドトキシン濃度が上昇する症例ではDAO活性が低下する結果を得た。外科侵襲反応の発症機序に関するgut hypothesisは、bacterial translocationによって侵襲反応が引き起こされるとする仮説である。しかし我々はin vitroの検討により、3)IL-6は腸粘膜上皮細胞へ直接作用してDAO活性を低下させ、かつbacterial translocationを促進すること、すなわち侵襲反応が腸粘膜integrityを低下させる現象を見い出した。また、外科侵襲下で障害された腸粘膜防御機構の管理法として4)経腸栄養法(EN)は高カロリー輸液(TPN)に比して低下した腸粘膜integrityの回復を促進することを臨床例で明らかにし、さらに5)経腸栄養基質の基礎検討として(1)食餌性核酸欠乏はマウス好中球機能を抑制し、(2)ω3系多価不飽和脂肪酸は腸粘膜細胞の透過性を変える結果を見い出し、それらに関しては現在引き続き詳細な検討を行っている。
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