ヒトp21遺伝子をアデノウイルスベクターを用いて各種ヒト培養癌細胞(非小細胞肺癌[H1299]、大腸癌[DLD-1、LoVo]、食道癌[TE1、TE13]、骨肉腫[SAOS-2])に導入したところ、フローサイトメトリ解析により細胞周期のG1期停止が認められた。個々の細胞は細胞質の増大や扁平化などの分化/老化によりみられる形態学的変化を呈し、p21遺伝子導入がこれらの現象のtriggerになっている可能性が示された。抽出した蛋白質のテロメラーゼ活性はp21遺伝子導入によりいずれの細胞でも顕著に低下しており、分化傾向が誘導されていると考えられる。また最近、老化のマーカーとしてpH6.0におけるβ-galactosidase活性が注目されているが、p21遺伝子導入によりH1299、DLD-1、LoVo、SAOS-2細胞は強いX-gal染色陽性となり、老化が誘導されていることが明らかになった。TE1(p53変異株)およびTE13(p53正常株)細胞では、p21遺伝子導入により認められる形態学的変化と同様の変化がretinoic acid(RA)処理により得られ、またRA添加後のTE13細胞では強いp21蛋白質発現が観察された。TE1細胞はコラーゲンによりゲル化した繊維芽細胞上で重層培養可能で、この器官培養法により食道上皮をin vitroで再現できると考えられる。現在までのところ、各種実験を繰り返すことでアッセイなどの結果が安定してきており、再現性をもったデータが得られつつある。また、個々の実験結果についてはほぼ当初の予測どうりの結果が得られており、現時点では研究全体からみて順調に進行していると思われる。
|