研究概要 |
本研究の目的は,TGF-β1の添加培養により浸潤能,肺転移能を獲得するラット乳癌細胞株ER-1細胞を用いて,この間におこる増殖因子,接着分子の変化を明らかにすることである.増殖因子としてTGF-βと臨床的にも乳癌の予後と関連の深いVEGFを中心に検討した. 培養の方法は,三十日間のTGF-β1(l0ng/ml)添加状態で継代培養を行なった後,さらにTGF-β1を非添加状態で約二週間継代培養を継続した.この培養をパイロットスタディを含め合計四度にわたり行ない,各時期(添加開始時,1週後,2週後,3週後,添加中止後1週後,2週後)における細胞の回収,tRNAの回収を行ない,免疫染色,northern blotting法による検討を行った. 免疫染色による検討では,TGF-β1,TGF-βI型受容体,TGF-βII型受容体,VEGF,E-cadherin,PCNAを用いて行なったが,コントロール細胞と比較し,発現の違いは明かにできなかった. またnorthern blotting法によるTGF-β 1 mRNA,TGF-βII型受容体mRNA,VEGF mRNA,c-myc mRNAの検討についても,コントロール細胞と比較し,発現の違いを明らかにすることはできなかった. これまでの検討において,TGF-β1添加培養細胞においてTGF-β,TGF-βI型受容体,TGF-βII型受容体,VEGF,E-cadherinなどの発現の変化は認められなかった. 今後,候補となるべき因子を選択し検討を重ねるよりも,mRNAそのものの比較を行なうこと方がより効率的であると判断し,これまでの方針を変更し抽出したtRNAからcDNAを作成し,cDNA subtraction法による検討を開始している.
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