研究概要 |
われわれは、チオアセトアミド(TAA)腹腔内投与により肝硬変ラットを作製したが、このモデルは種々の大きさの再生結節と結合織線維の増生を認め、ヒトにおける肝硬変と類似していた。これに45%肝切除術を施行し、術直後からrecombinant human HGF(rhHGF)の持続静注を行い、術後1,2,3,5,7日の時点での残存肝の再生状況、血清学的変化を調査した。この結果、2日目以降の肝再生率は対照群に比べ約2倍の上昇を示し、7日目のHGF群の肝再生率は88%(対照群では70%)であった。肝細胞の増殖度(細胞周期S期)を反映するPCNA labeling indexは1日目の時点において、HGF群は対照群に比べ有意に高値を示した。血清学的検査において、AST,ALTおよびALP活性はHGF群でより早く術前値に復し、血清総蛋白、アルブミン、レチノール結合蛋白レベルはHGF群でより早い回復を認め、7日目の時点では術前値を上回っていた。またHGF群ではプロトロンビン時間の延長は認めず、ヘパプラスチン、フィブリノーゲンレベルは対照群に比べ高値を示した。さらに、血清脂質であるtriacylglycerol,phospholipid,total cholesterol,遊離脂肪酸レベルはHGF群で常に対照群より高値を示し、術後3日目にピークを迎えたが、この値は術前値の2-3倍であった。以上の結果より、HGFは部分肝切除後肝硬変ラット残存肝の再生促進、肝機能の改善作用を有すると考えられ、HGFが肝切除を要する肝硬変患者に対する有用な治療薬となりうる可能性が示唆された。また、今回認められた血清脂質の著明な増加の理由を解明するため、肝硬変ラットにおける脂質代謝を培養細胞を用いて検討中である。
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