研究概要 |
膵胆管合流異常には胆管系の悪性腫瘍が合併することが知られている。ハムスターにおいて開発された胆嚢十二指腸吻合及び総胆管結紮による膵胆管合流異常モデルは、N-nitrosobis(2-oxopropyl)amine(BOP)を投与すると、膵管癌、肝内胆管癌のみならず肝外胆管癌、胆嚢癌が誘発される。膵胆管合流異常モデルでの発癌過程における遺伝子変異の関与を検索する目的で、肝外胆管癌、膵管癌のK-ras,p53遺伝子の点突然変異を調べた。6週齢の雌性シリアンゴールデンハムスターに、胆嚢十二指腸吻合及び総胆管結紮切離(CDDB)を施行した。術後4週目より週1回10mg/kgのBOPを9回皮下投与し、初回BOP投与後、20週目に屠殺し、肉眼的に明らかな膵腫瘍及び肝外胆管癌の一部を液体窒素にて凍結保存した。K-ras,p53遺伝子点突然変異はRT-PCR-SSCP法、Direct sequence法にて検索した。肝外胆管癌は55.9%、膵管癌は67.6%の頻度で組織学的に認められた。肝外胆管癌8例、膵管癌11例につきK-ras,p53遺伝子変異を検索した。K-ras遺伝子変異は、肝外胆管癌で8例中6例(75%)、膵管癌で11例中6例(54.5%)に認められた。Direct sequence法では全例にK-ras exon1のcodon12にGGT→GATの点突然変異が証明された。それに対し、p53exon5-7には遺伝子変異は認められなかった。以上より、膵胆管合流異常の発癌過程においては、K-ras mutationは重要な役割を果たすが、p53の関与は少ないことが示唆された。 次にハムスター膵胆管合流異常モデルにBOPを投与せずに長期観察をし、6ヵ月経過例及び12ヵ月以上経過例の膵胆管系を病理学的に検索した。発癌剤を投与することなくCDDB術後6ヵ月観察をした6例で、全例に胆嚢上皮の過形成を認め、1例では高度の腺管の異型性が認められた。CDDB後6ヵ月経過群のPCNA labeling indexは正常胆嚢粘膜に比し有意に高く、細胞回転が亢進していることが証明された。K-ras exon 1 codon12,13のmutationは胆嚢上皮からは認められなかった。CDDB術後12ヵ月経過した14例では胆嚢には全例過形成が認められたが、癌の発生は認められなかった。総胆管は平均2.8mmと拡張しており、8例に過形成を認めた。1例に肝外胆管癌の発生を認め、間質への浸潤像もみられた。膵組織は全例ほぼ正常であった。K-ras exonl codon12,13のmutationは肝外胆管癌からも認められなかった。このモデルで胆道の前癌状態から発癌にいたる過程が観察されることが示された。
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