研究概要 |
(目的)キラーT細胞(Cytotoxic T Lymphocyte : CTL)がMHC拘束性、抗原特異的に自家癌細胞を認識し攻撃することは以前から知られている。しかしこのようなCTLの研究はメラノーマにおいてようやく基礎及び臨床応用に進んだくらいであり、この分野における大腸癌の研究はあまり報告がない。我々はすでに食道癌患者の検体から自家の食道癌細胞株及びCTLを誘導することに成功し、さらに食道癌の癌細胞上に発現しCTLによってHLA-A24及びHLA-A26拘束性に認識される癌拒絶抗原遺伝子を同定した。またその遺伝子産物のコードする抗原ペプチド及びT細胞エピトープも同定した。CTLによってHLA-A24及びHLA-A26拘束性に認識される癌拒絶抗原遺伝子によりコードされるペプチドをSART-1(Scquamous cell carcinoma Antigen Recognized by T cells -1)と名付け、さらにSART-1の抗原ペプチド領域{125-kD(800アミノ酸)と43-kD(259アミノ酸)の2種類の蛋白質}を決定した。(Shichijo et al.,J.Exp.Med.,1998)そこで今回は、これがヒト大腸癌組織においても発現しているかどうかを検討した。 (方法)リコンビナントSART-1蛋白を免疫原として抗SART-1ポリクロナール抗体を作製し、蛋白レベルにおいてWestern Blot法にて同遺伝子産物の大腸癌細胞株(Colo201,Colo205,Colo320,HCT116,SW620)およびヒト大腸癌組織における発現を明らかにした。 (結果および考察)大腸癌細胞株においてはSART-1 800が5例全例に、SART-1 259が5例中2例(40%)に発現していた。ヒト大腸癌組織においてはSART-1 800が11例中4例に発現していたが、SART-1 259は発現がみられなかった。少なくともSART-1 800はヒト大腸癌の癌拒絶抗原となりうる可能性が示唆された。
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