研究概要 |
本年度はマウス脳内のモルヒネ濃度の術後の変動およびTNF,IL-1,IL-6の推移についての検討を試みた.大脳基底核にmicrodialysis probeを挿入し,潅流液をfraction collectorにて採取し,潅流液のモルヒネ濃度の測定を試みたが,モルヒネの回収率が低いために,測定限界以下であった.同様にELISAを用いたサイトカイン濃度の測定も限界以下であったため,microdialysisによる脳内のモルヒネ,サイトカイン濃度の測定を断念し,開腹術後24時間後にマウスを犠死せしめ,脳および他の臓器を採取し,脳のサイトカイン,モルヒネ濃度の測定を行ったところ,手術侵襲によって脳内のモルヒネ濃度とサイトカイン濃度は増加していることが判明した.サイトカインmRNAのPCR法による定量法については手技は確立され,脳内TNF,IL-1,IL-6のmRNAの発現量は対照群に比べて有意に増加していた.このことからも,我々の仮説である手術侵襲期には脳内サイトカインがモルヒネの産生を誘導することが示唆された.平成8年度までの研究ではTNFの脳内の注入によってモルヒネの産生が増加し,侵襲反応である糖産生の亢進,蛋白の崩壊の促進を認めたが,侵襲反応は末梢臓器で産生されるサイトカインも関与している.そこで,平成10年度は脳内のサイトカインの産生部位について免疫染色法によって明らかにすると共に末梢臓器のサイトカイン産生をステロイドホルモンの術前投与によって抑制できるか否かを検討すると共に脳内の神経細胞での産生がマクロファージやリンパ球でのサイトカイン産生と同様に抑制されるか否かについて検討する.この検討によって中枢神経系を介した侵襲反応が末梢臓器で産生されたサイトカインによって影響されるか否かが明らかとなる.
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