食道癌p53のpoint mutationの検査方法としてPCR-SSCP法はスクリーニング法としては有用であるが結果が偽陽性となることが多く、またp53癌抑制遺伝子のpoint mutationについての報告のほとんどは欧米と中国(アメリカNational Cancer Instituteの中国での調査)からのものであり、日本人の食道癌におけるp53の点突然変異についてはわずかの報告があるのみでありその浸透率を始め詳細は不明である。また従来p53のpoint mutationの多くはexon 5からexon 8の間にあるとされ研究のほとんどはこの領域に限って行われてきたがその後exon5-8以外においても変異が検出され始めており、食道癌においても新たなpoint mutation検出のためにはp53cDNAの全塩基配列を決定する必要があると考えられる。また今回第二の研究対象としてcDNA全長のシークエンスによって発見され確定された食道癌p53癌抑制遺伝子変異を有する1例において、主病巣と同一の変異が全郭清リンパ節それぞれで認められるか否かをPCR法を用いて検索し分子生物学的な微小癌遺残の検出を試みた。cDNAの全翻訳領域をシークエンスする事によってExon 5〜8以外のExon10.codon 342に新たなnonsense mutationが発見され確認された。またこの1例において郭清リンパ節150個のp53変異を検査したところ150個のリンパ節の内6個のリンパ節でprimary tumorと同一のp53癌抑制遺伝子codon342の変異が認められ塩基レベルで転移陽性と判定された。この内の1個のリンパ節は右反回神経周囲リンパ節であり、従来の病理組織学的検査では転移陰性と判定されていたものであった。
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