心拍動下心臓手術においては、冠循環遮断中の心筋酸素代謝が解明されていないため遮断許容時間は不明で、常温心筋虚血による心筋障害の発生が懸念される。そこで、心拍動下の冠状動脈バイパス手術の実験モデルを作成し、酸化および還元ヘモグロビンの近赤外光に対する吸収特性の差を利用して心筋組織酸素飽和度、ヘモグロビン量を測定し、心機能との関連を検討した。 成犬を用い、左冠状動脈前下行枝を剥離し、組織酸素飽和度モニター用センサーを左室に貼付し、心筋組織酸素飽和度およびヘモグロビン量を無侵襲に連続的に測定した。同時に心電図および血行動態を連続測定した。心拍動下に左前下行枝血流を5分、10分または20分間遮断した後、冠血流を再開した。冠血流遮断により心筋組織酸素飽和度は82%から直ちに74%へ低下し、心電図ST上昇と血圧低下を認めた。冠血流再開によって心筋組織酸素飽和度は84%へ回復上昇した。20分間の冠血流遮断では心筋酸素飽和度の回復は不良であった。冠血流の5分間遮断と五分間再開の後、2回目の5分間遮断を行うと、心筋酸素飽和度は76%となり1回目の遮断時より高値を示した。さらに3回目の5分遮断と5分再開の後、20分間の遮断を行うと心筋酸素飽和度の低下は軽度で77%を保ち、虚血耐性が認められた。 本研究は、近赤外分光法を利用した心筋組織酸素飽和度の連続測定により心拍動下冠循環遮断時の心筋組織酸素代謝を解明した。冠循環遮断再開の繰り返しによる心筋虚血耐性獲得が心筋酸素代謝の面で明らかにされた。心拍動中の冠循環遮断時の光学的心筋モニタリング法が確立され、心臓手術への応用が期待される。
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