心拍動下心臓手術においては、冠循環遮断中の心筋酸素代謝が解明されていないため常温心筋虚血による心筋障害の発生が懸念される。そこで、心拍動下の冠状動脈バイパス手術を想定した実験モデルを作成し、近赤外光を用いて心筋組織酸素飽和度及びヘモグロビン量を測定し、さらに心室圧容積曲線を用いて心機能を詳細に検討した。 成犬を用い心拍動下に左冠状動脈前下行枝血流を一時遮断し、左室心筋組織酸素飽和度及びヘモグロビン量を連続的に測定し、同時に心電図および血行動態を測定した。1群では、30分間血流を単純遮断した後、3時間再灌流を行った。冠血流遮断によって心筋組織酸素飽和度は直ちに低下し、心電図ST上昇を伴った。再灌流によって心筋組織酸素飽和度は回復上昇した。2群では、冠血流の5分遮断と5分灌流を3回繰り返す処置を行った後、同じく30分間血流遮断し、次いで3時間再灌流を行った。心筋組織酸素飽和度は2、3回目の5分遮断時には1回目の遮断時より段階的に上昇した。3回の5分遮断・灌流の後の30分間遮断時には、心筋組織酸素飽和度の低下は軽度に留まり、虚血耐性現象が認められた。心筋障害の指標として測定した3時間再灌流後の心筋脱酸素トロポニンT値は1群が2群より高値であった。コンダクタンスカテーテルと先端圧トランスデューサーを左室内に留置し、心室圧容積曲線を描き心機能を解析した。心筋虚血時には左室収縮・拡張末期容積は増加し、左室仕事量は低下した。これらは再灌流で回復した。 本研究では、近赤外分光法を用いた心筋組織酸素飽和度の連続測定により、心拍動下冠血流遮断時の心筋組織酸素代謝が解明された。短時間の心筋虚血・再灌流の繰り返し処置による虚血耐性獲得現象が心筋酸素代謝の面で明らかにされた。
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