これまでのウサギを用いた実験的研究で、F-Pcomplex(以下FPC)モニター下に腎動脈下の腰動脈を一時的にclampし、FPCの変化を観察することで、Adamkiewicz動脈の同定が可能であることがわかった。 平成10年以降、肋間動脈・腰動脈clampに変わり、薬剤(KClなど)注入によるAdamkiewicz動脈の同定の可能性をウサギを用いて実験的に検討した。薬剤注入によりFPC変化は認められると思われたが、薬剤注入用のカテーテルの挿入による動脈の狭窄や、挿入の刺激による動脈のspasmのために起こる脊髄虚血と考えられるFPCの変化が起こり、Adamkiewicz動脈同定には至らなかった。 現在ウサギを用いた腰動脈clampによるFPC変化をもとに、腰動脈結紮を行って得られる脊髄虚血モデルを作り、慢性期の対麻痺発生の検討を実験的に行っている。腎動脈下の腰動脈5本のうちAdamkiewicz動脈を含まないと考えられる最も頭側の腰動脈を結紮し、残る4本を対象に3本の腰動脈を同時にclampしFPC変化を観察した。FPC変化を認めなかった場合、3本の腰動脈はすべて結紮し(5羽)、FPC変化を認めた場合は中央の1本だけを温存し残る1本を結紮しても(7羽)、対麻痺を回避できる可能性があることがわかってきた。対照としてFPC変化を認めた場合にその3本を結紮したところ、5羽中4羽に対麻痺を認めた。さらに2日目以降、残した腰動脈から選択的に造影し、Adamkiewicz動脈との関連を検討することで、Adamkiewicz動脈へと連なる腰動脈の前後を温存した場合、側副血行により脊髄虚血が回避されている様子が確認されている。この実験の結果はヒトの胸腹部大動脈瘤の手術における、脊髄虚血による対麻痺を回避する手段として応用できるものと考えられ、現在実験的研究を続けている。
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