本研究では主に来院時心停止を想定した心停止ドナーからの心移植モデルを用い移植前にグラフトの機能を評価し得るか否かについて検討を行った。 【方法】13頭の雑種成犬の大腿動脈から瀉血し心停止として60分間室温で放置した後心臓を体外に摘出し、Langenndorff回路に類似した潅流装置に設置しsubstrate-enriched warm blood cardioplegia(WBCP)で潅流した。WBCPに続いて30分間血液を用いたLangendorff潅流を行った後、冠潅流を離脱し80mmHgの後負荷に対し駆出可能か否かを検討した。この後同所性に心移植を行い移植後の心機能を評価した。 【結果】潅流装置内での再潅流後冠潅流を離脱し80mmHgの後負荷に対し駆出したものは13例中4例であった。これらの4例は移植後ドーパミンを中止しても良好な血行動態(収縮期圧>80mmHg、平均左房圧10mmHg)を維持した。またこれらの心臓は移植後も心停止前と同等の収縮性を維持していた。一方他の9例中6例は体外循環を離脱し得たが、いずれもドーパミン離脱後に良好な血行動態を維持し得なかった。 【結論】失血による心停止後1時間を経過した心臓でも潅流装置を用いた再潅流法を用いることにより移植可能なものがあることが示された。更にこの潅流装置を用い80mmHgの後負荷に対し駆出し得たグラフトは移植後も良好な血行動態を維持した。本法は移植前に移植後の心機能を予測するのに有効な方法と考えられた。日本においても脳死ドナーからの心移植が行われるようになったが、海外と同様にドナー不足の問題をかかえるようになることは必至と思われる。近年注目されている心停止ドナーの中でも来院時心停止患者は大きなドナープールとなることが期待されるが、移植前の心機能を評価できないことが最大の問題点とされてきた。今回得られた結果は心停止ドナーからの移植の実現に大きく貢献するものと思われる。
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