研究概要 |
(目的)本研究は、肺癌肺転移巣の形態学的特性と肺転移巣に対する抗腫瘍リンパ球の作用を微小循環レベルで生体観察することによって、免疫療法を中心にした新たな肺癌治療法を開発することを目的とする。 (実験方法)平年9年度は主に肺転移巣の形態学的特性について研究を行った。生体腫瘍微小循環観察法については拙著(蛍光法を用いたラット肺微小循環の生体顕微鏡による観察。脈管学27:113-120,1987)をご覧いただきたい。 1、ドンリュウラットに樹立された佐藤肺癌を腹腔に移植し、その癌性腹水より106個の癌細胞を取り出し尾静脈より静注し、静注された癌細胞が肺微小血管にどのように付着するかを観察した。 2、肺微小血管に付着した癌細胞がどのように成長するかを、腫瘍微小血管との関連において観察した。 (実験成績)1、癌細胞は次三つの形で肺微小血管に付着した:(a)肺細動脈から肺毛細血管にかけて押し込まれるように付着(全体の約90%)する、(b)太い肺細動脈壁に引っかかるように付着(全体の約5%する、(c)周囲微小血管の微妙な圧バランスにより、肺細動脈末梢に軽く付着する。(a),(b)は癌細胞に大きなストレスがかかり、癌細胞は生存しにくいと思われた。(c)は癌の生存に良好であると思われた。 2、癌細胞は癌付着3,4日後頃より成長しはじめた。この時期に一致して、転移巣周囲の腫瘍微小血管数が1,2日目の2-3倍に増加した。癌付着後約1週間で腫瘍細動脈と腫瘍細静脈を兼ね備えた成熟した転移巣ができあがった。これらの腫瘍微小血管には抗腫瘍リンパ球の付着が全く見られなかった。 (結論)肺微小血管への癌細胞付着様式と癌細胞生存との間に密接な関係があるものと思われる。癌細胞付着後3,4日目より転移巣の増大が始まり、この増大に腫瘍微小血管の成長が対応していた。抗腫瘍リンパ球は腫瘍微小血管に全く付着しなかった。
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