研究概要 |
脳腫瘍の中でも悪性神経膠腫は放射線に対する感受性が低いために極めて難治性である。従来のγ線や陽子線に対して、高LETの重粒子線は修復不可能なDNA二本鎖切断を生じ、神経膠腫細胞でもcytosidalな効果が期待できる上に、照射範囲を限定し、脳深部でも高い生物学的効果を得ることができる。本研究の目的は、重粒子線癌治療装置「HIMAC」を用いて、悪性脳腫瘍と正常脳組織に対する細胞障害性に関する放射線生物学的な裏付けを得るために、主に細胞死の出現に注目し、それらを細胞レベル、分子レベルで明らかにすることである。 平成9年度では、悪性神経膠腫細胞株(U-251,TKB-1,A-172,U87MG)に対する重粒子線の細胞障害性をDye exclusion test,LDH release assay,Apoptosisの出現率から検討した。重粒子線の照射は放医研HIMACのビームタイムに従って行い、対象として筑波大学医学RI棟のGammacellでγ線の照射を行った。 その結果、悪性神経膠腫細胞株における細胞死は重粒子線照射後時間とともにLET依存性に増加した。そして80keV/μm carbon beamを10Gy照射後4日、7日目には同じ線量のγ線照射後のほぼ3倍の死細胞を認めた。また、培養上清中へのLDH releaseも時間とともに上昇したが、LET依存性は細胞死の出現率に比べ低かった。一方、γ線ではアポトーシスは全く誘導できなかったが、Carbon beamでは時間とともにアポトーシスの出現が認められた。しかし、その割合は80keV/μm照射後で全細胞の約5〜7%であり、細胞死にしめる割合はネクローシスの約1/8から1/10と推定された。 高LETの重粒子線は細胞死の誘導においてγ線よりも有効であり、γ線では誘導できなっかたアポトーシスも誘導できることが示された。またヒト膠芽腫ではこのようにして誘導される細胞死が4日目、7日目とかなり時間が経過して出現することも明らかになった。
|