1) マウスメラノーマでの検討 マウスメラノーマB16はマウス頚動脈注入にて脳内への転移巣を形成せず髄膜のみに転移し、マウスメラノーマK-1735は脳実質内にのみ病変を形成する。この臓器特異的転移は脳の微細環境、とりわけTGF-betaが深くかかわっている可能性が示唆されているが、さらに腫瘍細胞とinteractionをもつ脳の微細環境の検討を行なった。In vitroのgrowth assayにおいて脳微細環境を模倣するため、グリア細胞の腫瘍化したものであるrodent glioma 9Lの培養上清存在下にマウスメラノーマB16、マウスメラノーマK-1735を培養し検討した。B16はその成長が抑制されたのに対し、K-1735は成長抑制が観察されず、微細環境要素としてグリア細胞が関与していることが強く示唆された。B16細胞、K-1735細胞のTGF-beta receptorの解析を行なった。それぞれの細胞よりmRNAを抽出し、TGF-beta receptorのNorthern blot analysisを行なったが、この両細胞間でreceptorの発現に著明な差を認めた。 2) ヒト悪性脳腫瘍の病態の検討 ヒト悪性脳腫瘍において腫瘍と宿主の関係についての検討を行なった。生物学的に非常に悪性と考えられる胚腫は、臨床的には非常に放射線などの治療に反応が良いが、これは腫瘍細胞自身は高い増殖能をもつものの、宿主である脳で免疫反応が惹起されておりこのために腫瘍細胞がアポトーシスに陥っていて、この増殖と細胞死とのバランスで腫瘍全体としての成長が規定されている可能性があることを見いだした。また、神経系の腫瘍であるcentral neurocytomaの臨床病態についてもいくつかの新しい知見を得て発表した。さらに、自験例、文献報告をもとに臨床での癌脳転移の治療判断の基準を作成した。
|