研究概要 |
1.脊髄内E型カドヘリン/神経伝達物質の消失モデルを作製した. 即ち,マウスを全身麻酔下に片側坐骨神経を露出し結紮あるいは血管クリップで圧挫した. 無処置の対側をコントロールとした. 処置後一定期間ののち,カルシウム含有パラホルム固定液で潅流固定を行ない,免疫組織化学的手法をもちいて,脊髄内,後根神経節,坐骨神経内の細胞間のE型カドヘリン,サブスタンスPの消退・再出現を光顕的・電顕的に検討した. また,同時に軸索束形成の変化,後根神経節内の変化を検討した. その結果,坐骨神経圧挫側のRexed II層のE型カドヘリン,サブスタンスPは第7病日に消失した.この消失蛋白は結紮群(電顕的に部分的に再生軸索の出現することを確認した)では,第63病日に再び同じRexed II層に出現した. 一方,血管クリップで挟んだままの永久的圧挫群ではE型カドヘリン,サブスタンスPは消失したままであった. ウエスタン・ブロッティング法を用いて,各神経組織内の部位別E型カドヘリンとカテニンの蛋白の発現の有無を検討した. E型カドヘリンは三叉神経,脊髄後根,後根神経節,坐骨神経とRexed II層を含む脊髄辺縁部に発現がみられたが,大脳,小脳,中心管を含む脊髄中心部は陰性であった. α E-catenin,βcateninは検索したすべての組織(大脳,小脳,脳幹,三叉神経,脊髄中心部および辺縁部,後根,後根神経節,坐骨神経)に陽性であった. α N-cateninは中枢神経(大脳,小脳,脳幹,脊髄)に発現し,後根神経節には弱陽性,三叉神経,脊髄後根,坐骨神経には陰性であった. 3.神経切断部位の中枢端に浸透圧ミニポンプから持続的にNGFを投与したところ,Rexed II層のサブスタンスPの消失を阻止できた. 一方E型カドヘリンの消失は阻止できなかった. 4.今後引き続いて,神経切断部位の中枢端に浸透圧ミニポンプから持続的にNT-3,BDNFなどの他の神経成長栄養因子を投与し,各種蛋白の発現変化を検討することにより,各種蛋白の発現機構に迫るなど,我々が確立したモデルのこの現象を掘り下げることにより,痛みの一次感覚神経終末の再構築の解明のみならず,細胞接着因子が細胞膜にとどまるアンカーメカニズムと接着因子のturnoverのメカニズムの一端に迫りたい.
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