虚血により障害を受けた脳組織での神経細胞の生死に関しては世界中において形態学的、細胞分子生物学的解析が進んでおり、ニューロサイエンスの中でも大きなトピックスの1つとなっている。最近、虚血性神経細胞死の細胞内機構として、エネルギー代謝異常による細胞死「necrosis」とcaspase cascadeを介する細胞死「apoptosis」とを結び付ける重要な細胞内器官としてミトコンドリアの重要性が明らかにされた。一方、虚血性神経細胞死の研究の中で虚血耐性現象の存在が知られており、あらかじめ軽度虚血やspreading deppressionを付加すると脳神経細胞がその後の虚血負荷に対して耐性を獲得することが証明されているが、その細胞内機構については、今だ解明されておらず、近年注目されてきたストレス蛋白の関与は最近になり否定的である。本研究では、ジャービル-過性前脳虚血モデル、ラットミトコンドリア障害モデル、ラット中大脳動脈永久閉塞モデル、ラット中大脳動脈一過性閉塞再潅流モデル、マウス中大脳動脈永久閉塞モデルにおいて、1)海馬CA1における遅発性神経細胞死およびミトコンドリア障害による神経細胞死の両方においてDNA fragmentationを伴うアポトーシスが関与すること、2)局所脳虚血における神経細胞死およびミトコンドリア障害による神経細胞死の両方においてBcl-2やBaxなどのアポトーシス関連遺伝子とpoly(ADP-ribosyl)ationが関与すること、3)チオレドキシンがROIにより誘導され、誘導されたチオレドキシンが神経細胞保護に働き、一部の細胞ではチオレドキシンが核内の遺伝子発現を調節しうること、4)ミトコンドリア機能を介したchemical preconditioningやレドックス制御に関わる因子の増減により脳虚血耐性が獲得されることが示された。
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