本研究の目的は、カイニン酸誘発扁桃体てんかんラットモデルを用い、(1)視床下部(上乳頭核)-海馬経路が海馬に興奮促進的に作用し海馬内興奮伝搬効率を調節している入力系であること、(2)この入力経路による海馬内興奮伝搬の修飾作用が歯状回神経細胞への直接作用であるか関与するレセプターは何であるかを明らかにすること、(3)同様に中隔-海馬経路が海馬内興奮伝搬を修飾できるかどうかをしらべること等により、海馬内興奮伝搬効率の修飾入力系を確立することである。初年度は視床下部(上乳頭核)へのムシモール注入による上乳頭核-海馬入力系の一時的遮断が、扁桃体への低濃度カイニン酸注入により誘発された発作波(Subconvulsive Seisures)の海馬内伝搬をどのように修飾するかを、神経細胞の興奮マーカーである初期早期遺伝子c-fosの発現と海馬脳波(EEG)を指標に調べた。先ずカイニン酸を片側の扁桃体に注入し、同時に両側の上乳頭核へのムシモール注入により上乳頭核神経細胞活動のブロックを介して上乳頭核-海馬入力系の一時的遮断を行った。このカイニン酸誘発発作波の海馬内伝搬の様子は、カイニン酸刺激につづいて対側海馬CA3からの海馬EEGにより記録された。またカイニン酸刺激の2時間後ラットは潅流固定され、得られた海馬切片、下側頭葉切片おいてc-fosを発現する神経細胞の分布がfos抗体を用いた免疫染色により検出された。結果として、上乳頭核-海馬入力系の一時的遮断はカイニン酸扁桃体刺激により誘発された発作波の臭内野から海馬内への伝搬を海馬歯状回で遮断する作用をもたらした。この海馬内発作波伝搬の遮断効果から、上乳頭核-海馬入力系が海馬に興奮促進的に作用し、海馬内情報伝搬の制御においてゲーティング機構を形成しているものを結論される。
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