研究概要 |
抗妊娠ラット腎抗体(APRK)を妊娠9日目のウィスターラットに1.0mg/100g腹腔内投与して、中枢神経奇形を誘発した。 1.APRK誘発胎児水頭症における細胞性免疫の関与をCD3,CD4,CD8,CD20,CD68に対するモノクローナル抗体を用いて免疫組織化学的に検討した結果、T-cell,B-cell,macrophage抗原はAPRK投与ラットの子宮、胎盤、羊膜に発現していたが、生食水を投与した対照ラットには存在しなかった。細胞性免疫の胎仔への直接作用は証明されなかったが、子宮、胎盤、羊膜での免疫応答が間接的に胎児水頭症の発現を促進しているものと考えられた。 2.APRK誘発胎児水頭症における癌遺伝子の関与をP53,c-myc,c-fosについて検討した。その結果、c-myc,c-fosの発現はなく、P53のみの発現が確認された。P53のsubtypeをさらに分析してみると、type1およびtype3に対するモノクローナル抗体で検討した結果、type1に対してのみ陽性所見が得られた。このため、この胎仔に発現しているP53はwild typeのものであり、APRKによって障害されたDNAを修復するために発現しているものと考えられた。 3.APRK誘発胎児水頭症および神経管閉鎖不全モデルにおける発現機序をconcanavalin A(ConA)とwheat germagglutinin(WGA)に蛍光色素を標識したconiugateを用いて検討した。FITC-ConAは胎仔神経上皮細胞上と細胞間に証明されたが、染色性は弱く対照胎仔での発現が強かった。FITC-WGAは胎仔終脳皮質において細胞間と基底膜に強い染色を認めた。しかし、神経管管腔面には陽性所見を認めなかった。これに対し対照胎仔では、神経管の神経上皮細胞の基底側と細胞間に強く発現していた。以上より、APRK投与胎仔では神経上皮細胞上の炭水化物がAPRKによって修飾され、細胞間相互の作用が不完全になったものと考えられた。このことは、細胞間の接合に重要な役割を果たす細胞表面のpolysaccharideとglycoproteinとのレクチン結合部に変化をもたらしたと推測された。
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