研究概要 |
局所永久脳虚血に対する低体温療法の効果に関しては、未だ十分な知見が得られていない。本研究の目的は、永久脳虚血に対して一過性の脳冷却が復温後も保護効果を維持し得るか否かを明らかにすることである。 116匹のSDラットに対して以下の実験を行った。(実験1)経口挿管・人口呼吸下に左中大脳動脈(MCA)近位部を露出し切断(MCAo、但しsham群では硬膜切開のみ)した。その後6時間麻酔を維持し、この間は治療群(=A群)では頭部のみに氷水を灌流した表面コイルを用いて局所冷却を行い、対照群(=B群)とsham群(=C群)では正常脳温に維持した。同時に脳温と、直腸温・血圧・血液ガス等の全身指標をモニタリングした。その後、復温の後に抜管し一定期間常温で飼育して、灌流固定の後に組織切片から梗塞巣を計測した。(実験1-1;6時間の麻酔終了時に固定。実験1-2;MCAo後24時間で固定。実験1-3;MCAo後48時間で固定。実験1-4MCAo後168時間で固定。)(実験2)より侵襲の少ないmask麻酔とし、4時間の間、自発呼吸下に同様の実験を行い、同様に飼育してMCAo後168時間で固定した。 治療群の脳温は虚血後20分以内に32℃台になり、冷却中は30℃に維持され、復温には1時間を要した。全身指標には、特に異常を認めなかった。梗塞体積(mm3,mean±SD)は、実験1-1(n=27)A(n=16)60±28,B(n=8)130±6,C(n=3)11±2;実験1-2(n=25)A(n=14)84±25, B(n=6)137±27, C(n=5)4±4; 実験1-3 (n=21) A(n=8)33±11 B(n=8)96±25, C(n=5)7±7;実験1-4 (n=10) A(n=5)41±20, B(n=3)86±23, C(n=2)6±7;実験2 (n=33) A(n=11)25±18, B(n=13)100±41, C(n=9)2±2であった。各々の実験結果に分散分析を行ったところ、すべて危険率5%未満で有意に治療群で梗塞巣が縮小した。 永久脳虚血に対して、一過性の脳冷却の脳保護効果は虚血後168時間まで持続することが明らかになった。
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