廃用性変化の防止・軽減及び電気刺激を中心に各種の物理療法の効果を検討するために、科学研究費補助金基盤研究(C)の援助により、平成9年度から11年度にかけて本研究を行った。 基本的実験系は、大腿骨・下腿骨を皮下に縫縮し、膝関節の屈曲拘縮を作製したラットの実験モデルで、この系を用い、以下の実験結果がまとめられた。 1) 基本的データとして、1週から10週までの経時的な関節拘縮の変化をみるために、摘出した大腿骨と下腿骨を用いて力学的計測を行い、粘弾性測定装置を使った強制振動応答法から膝関節周辺の各関節軟骨面、軟骨下骨面における動的剛性、位相差を得た。またDEXA式骨塩定量装置にて、大腿骨と下腿骨の骨幹部、骨幹端部に設定した各関心領域での骨密度の経時的計測も行った。 2) 同様に幼弱期から老齢期までのラット大腿骨のDEXAとpQCTによる構造解析を施行した。 3) 他方、強制走行させたラットにて、運動効果が時間と共にどう変化するか、大腿骨、脛骨、上腕骨にて骨密度を調べた。合わせて大腿骨の3点曲げ試験と応力緩和試験も行った。 4) この動物モデルに対し、拘縮を作った膝関節の内外側に設置した電極から20μA、50μAの直流電流刺激実験を行い、対照群と比較検討した。関節包・靭帯などの軟部組織の粘弾性を調べ、拘縮変化軽減に有効との結果を得た。また関節軟骨面に対する影響、骨幹端部の骨密度への効果も調べた。軟部組織の反応に比較して、関節軟骨や骨密度への影響は軽微で部分的差異も目立った。各組織により至適刺激条件の追求が必要であろう。 5) やはりこのモデルの膝関節へ40mW、60mW低出力レーザー照射を行い、関節軟骨面に対する影響、骨密度への効果を対照群と比較した。この刺激条件の低出力レーザーは関節拘縮変化の防止、軽減に一定の有効性を示した。さらに関節包、靭帯などの軟部組織に対する影響を調べたが、低出力レーザーの軟部組織への効果はごく限定的であり、廃用性変化の防止、軽減に今後の更なる検討が必要であることを示した。 6) 膝関節に拘縮を作製した動物に対し摂氏42度の温浴を行い、関節拘縮への温浴の影響を対照群と比較検討した。同様の力学解析と骨密度測定を行ったが、拘縮による変化を左右するような影響は認められなかった。 7) 電気刺激の骨組織への効果をみるため、医学データーベースを用いて無作為化臨床比較試験を収集、系統的レビューの手法に則って、臨床的有効性を調べた。さらにデータ収集の範囲を骨以外の筋・骨格系組織にまで拡大し、電気(電磁場)刺激のメタアナリシスを行い、一定の治療有効性を確認した。
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