ヒトの術中運動機能モニタリングにおいて、ECMAPが脊髄損傷の指標として適切かは不明である。本研究では、脊髄急性圧迫に対しECMAPの変化を記録し、術中運動機能モニタリングとしての有用性について検討した。10匹の成猫を用い、ケタミン麻酔下に開頭し皮質運動野を電気刺激した。撓側手根屈筋からECMAP(誘発複合筋活動電位)を、C6硬膜外からESCP(誘発脊髄活動電位)を記録した。まず、5匹に刺激頻度と刺激回数を変えて刺激し、最大振幅のECMAPが得られる刺激条件を求めた。様々な組み合わせで刺激を行ったところ、500Hzで5回の連続電気刺激により最大振幅のECMAPが記録されることが解った。これを至適刺激条件と考え、以下の実験は全てこの条件で行った。脊髄圧迫下でECMAPおよびESCPが如何に変化するか、また圧迫後の運動機能の関連性を検討するため、5匹の成猫でDynamometerを用い脊髄圧迫モデルを作製した。段階的圧迫を加えたところ、圧迫の増加に伴いECMAPの電位振幅は低下を示し、潜時は延長した。30gの圧迫でECMAPは全例消失した。ESCPも圧迫とともに電位振幅は低下し潜時は延長した。ECMAPが消失してもESCPの電位振幅がコントロールの60%以下になる例はなかった。手術後3匹は覚醒させ3週後に運動機能の評価を行ったところ、今回の例では運動機能障害を残すものは認められなかった。以上より、術中脊髄運動機能モニタリングとしてのECMAPはESCPに比較し鋭敏な脊髄障害の指標になりうることが解った。しかし、鋭敏すぎるがゆえ脊髄損傷の予後判定の指標にはなり難たく、現時点ではSEPなどの従来のモニタリング法との併用が望ましいと考えられた。
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