現在行われている人工股関節では骨頭、ソケットの平滑面同士がすべり、接触を行うため摩擦、摩耗が多く、臨床上で多くの問題が発生する。本研究は人工股関節total hip arthroplasty(以下THA)の長寿命化を目的として、THAのすべり面形状を改良し、摩擦の減少と耐摩耗性の向上を試みたものである。ソケット側の人工軟骨は、摩擦、摩耗粉が多いテフロン、ポリエステルよりポリエチレンが有用とされている。我々は、THAの長期連用により、ポリエチレンは関節面に均一に分布し、摩擦を低下させる液体膜潤滑状態を作りだす事を基礎的実験により証明した。我々は骨頭側にこのポリエチレンを埋没させることにより液体膜潤滑状態を促し超低摩擦THAを作製し、犬を用いた動物実験を開始した。(1)本研究に絶えられた科学研究費補助金により犬に挿入する超低摩擦THAを作製し、成犬を購入した。実験に用いる人工股関節はHS-21のCo-Cr合金製人工骨頭とポリエチレン製人工ソケットによるセメントレスTHAである。THAの骨頭部のすべり面に、深さ1.0mm、直径1.6mmのへこみを中心より半径5mmの円周上に6個作成し、骨頭にはさらに中心に1個のへこみを加えポリエチレンを埋め込んだ。(2)体重10kg前後のヴィーグル成犬6匹にTHAを挿入した。実験では、A群:へこみを作成しない平滑な骨頭と平滑なソケットの組合わせ。B群:へこみ付き骨頭平滑なソケットの組合わせ、の2種の組合わせによる人工股関節を使用し各3匹の2実験群を作成した。この人工股関節置換術は雑種成犬の一側後肢に対し施行し、術後4週間のギプス固定ののち自由に歩行させている。12、18、24ヶ月後に剖検し、ポリエチレンソケットの内面と人工骨頭表面に関して、肉眼的観察、光学顕微鏡・電子顕微鏡を用いて病理組織学的検索により、各群における摩耗の状態を経時的に検索中である。
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