研究概要 |
本研究の第一の目的は,末梢神経の再生に及ぼす電気刺激の影響を調べることである。末梢神経が再生するに当たっては,まず最初に神経障害部位の修復と再生芽の形成が重要なポイントとなる。そこでマウスの大腿部中央の高さで坐骨神経を切断し,切断部における軸索の修復過程を電顕で観察した。 切断直後から,神経軸索の近位断端には小胞やミトコンドリアなどの細胞小器官が集積する。これは形態的にも再生芽と非常によく似ている。これと平行して,断端部では形質膜が陥入して断端部を閉鎖する。この細胞小器官の集積部位は髄鞘に包まれていると,やがて変性し始める。一方,小器官集積部よりも近位で,微小管や神経細胞糸が多い部分は変性を免れ,今度は小器官集積部と細胞骨格優位部との移行部で形質膜が陥入して,変性部位が隔絶される。細胞骨格優位部でも,神経細糸束の間に小器官の小集積が形成され,この部分も髄鞘に包まれている場所では変性を始める。この場合,神経細系間の小胞同士が癒合して,不規則な虫食い状の腔所を作る。このような隔壁膜の形成は,変性部位から健常部位を境界し,健常部位を外界の影響から保護するために行われるもので,末梢神経の修復と再生に非常に重要な意味を持つものと思われる。また今回の観察から,集積部位が髄鞘に囲まれている限り,細胞小器官の集積と変性,形質膜の陥入や小胞の癒合により変性部位の切り放しが繰り返されている可能性が示唆された。 このような切断端における変化と平行して,断端よりもすぐ近位のランビエの絞輪では,切断後数時間もすれば側枝芽の形成が始まり,シュワン細胞の基底膜と髄鞘の間を,再生芽は遠位に向かって伸び出す。 現在,この修復過程における電気刺激の影響を電顕的に観察しているが,切断端のすぐ近くに電気刺激を与えると,細胞小器官の集積や隔壁膜の形成が遅れるようである。また側枝再生芽の形成も断端部のすぐ近くで起こるために,ランビエの絞輪における再生芽の形成も少し遅れるようである。この理由を明らかにするために,さらに詳細な形態学的分析が必要である。
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