研究概要 |
目的:本研究の目的は,高齢者の静的・動的立位平衡機能の加齢に伴う変化を調べることである.対象:60歳以上の健常高齢者256名(男77名,女179名)を対象とし,男女別および年代別(60歳代,70歳代,80歳以上の群)に6群に分類した.20歳代の若年者44名(男15名,女29名)を対照群とした. 方法:1)静的立位平衡機能検査:開眼・閉眼での閉脚立位での重心動揺を30秒間計測した.評価指標は,重心の総動揺距離,側方動揺距離,前後動揺距離を求めた.2)動的立位平衡機能検査:開脚立位から20cm前方まで片脚を踏み出し,元に戻る動作(ステップ動作)を行わせ,足圧中心点移動を計測した.評価指標は,その総移動距離,側方移動距離,前後移動距離を求めた. 結果:l)静的立位平衡機能検査:高齢者では若年対照群に比べ,開眼・閉眼時の重心動揺距離が有意に増大していた.高齢者での年代間比較においても,加齢に伴い重心動揺距離が有意に増大していた.この傾向はとくに男性の70代-80以上群の間で著明であった.高齢者において,年齢と開眼・閉眼時の重心動揺距離との間に有意な相関関係が認められ,加齢に伴う重心動揺距離増大は女性に比べ男性に著しい傾向がみられた.2)動的立位平衡機能検査:高齢者では若年者に比べ,左右共に側方移動距離のみの有意な減少がみられた.高齢者の年代間比較でも,加齢に伴いステップ動作での側方移動距離が減少する傾向を認めた.前後移動距離は,高齢者・若年者比較および高齢者の年代間比較においても有意差はみられなかった. 結語:高齢者では加齢に伴い,静的立位平衡機能の低下がみられ,身体重心動揺の制御が困難になることが示された.その傾向は,男性の70歳代を超える時期により著明であることが示唆された.動的平衡(前後ステップ動作)での足圧中心点移動では,前後移動はあまり加齢の影響を受けないが,側方移動は加齢の影響が大きく,ステップ動作の姿勢制御は著明に低下していることが示された.高齢者の平衡機能の評価・転倒予防・運動療法のための基礎的知見が得られた.
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